「お兄さん、ちょっとしゃがんで」
声をかけられたと思った突然服の端を勢いよく引かれ、健二は返事をする前にすとんとその場にひざを折った。一瞬そのまま転ぶんじゃないかと危ぶんだけれど「うわ」なんとかバランスが取れて上体を安定させる。踵が浮いているせいで微妙にぷるぷるしているのが情けない。
「目、つぶって」
いきなり屈ませられた理由を訊くより早く次の指示がきたので素直に目を閉じる。なんとなくどきどきしてしまうのは前に似たようないたずらを佐久間にやられたことがあるからで。でも佳主馬はまさか輸入物の激辛キャンディを口につっこんでくるようなことはしないだろう。されたらいろんな意味で泣く。
す、と目もとに触れた体温が横すべりする。感覚としては一瞬。なのに敏感になってしまうのはそうやって触れられるのに慣れていないからで、でも不快ではなかった。
「もういいよ」
なんとなく意識して心もちゆっくりとまぶたをもちあげる。文字通り目の前に不機嫌そうな佳主馬の顔。しゃがんでいるので見あげるこの位置関係が新鮮だ。立ってならんだときとは逆転する高低差。
「睫毛。ついてたから」
「そっか」
よいしょ、と健二は手をひざに置いて立ちあがる。ふくらはぎがだいぶ限界を迎えていた。本格的に運動不足だ。ここのいるとそれがよくわかる。明日あたり畑に連れてってやると万助さんには言われたけれどだいじょうぶだろうか。もはや筋肉痛は確定だ。
「ありがとう。佳主馬くん」
正しい高低差になって改めてお礼を言う。
自然、健二を見あげるかたちになった佳主馬はむっとしたように「べつに」拗ねてそっぽを向いた。
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