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なつゆき。

夏と行き、夏が往き、夏に逝く

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数直線上のある恋

 ステージから見て左上、二階の調光室につづく細い通路の手すりにもたれかかりながら健二はあくびを噛み殺す。どうせ気づいているのはとなりに経っている佐久間くらいなものだが一応マナー的に。壇上にいる夏希からはもちろん見えていないはずだけれど後でつつかれるのは遠慮しておきたい。罰ゲームとして手をつないで校内を練り歩くのはもう勘弁してください。
 ずらりとならんだパイプ椅子。そこに座るさまざまな制服の男女は都内の中学生とその保護者だ。
 一一月でだいたいのシーズンを終える学校説明会だが今年度の久遠寺高校は一二月にはいった今日がラストだ。近隣の高校二くらべてだいぶ遅いが参加者はかなり多い。どうせ終了後のアンケート回収と同時に人数カウントもおこなうのだろうがそんなことをしなくてもパイプ椅子の行掛ける列引く空席で簡単に計算できる。男女比はさすがに数えなければわからないけれど参加総人数は目算で五三八名。来年度の募集人数はたしか九クラス編成の三六〇名の予定で、ぱっと見て制服を着ているほうが圧倒的に多いから定員割れはまずない。人気の秘訣はやはり都心に位置しているのと進学率、部活の実績等々だろうか。お世辞にも制服はかわいいともかっこいいとも言いがたいデザインだ。とくにマスタードカラーのネクタイがとびきりダサいという評価を耳にするけれど真価はジャージで発揮される。ファッションにこだわりのない健二でもジャージ購入の際に体育着と合わせて引いた。
 年の末も見えた時期の学校説明会なんてここを第一志望に考えている中学三年生が大半なのでだれもがまっすぐに夏希の言葉に耳をかたむけている。船に乗りこんでいるのはどちらかというと身内のほうだ。全館空調で暖房を入れているので寒いことはないが、閉めきりの体育館がこんなにあたたかくてのぼせたりしないだろうか。
「しっかしー、夏希先輩もむちゃくちゃだよな、相変わらず。一時間で会場のセッティングしろなんてさ」
 同じように手すりに両腕を置いて階下を見ながら佐久間が小声で言う。
「手配忘れるとかないわー。顧問仕事しろよ、仕事」
「たしかに急だったよね」
「ま、それでもなんとかなっちまうあたり、夏希先輩の人徳ってすげえよな。さすが、武家の血ってやつ?」
「それはなんかちがうんじゃ……」
 眼下のステージにひとりで立ち、マイクを片手にスクリーンに映るスライドをわかりやすく説明する夏希は実のところすでに生徒会長を退任している。生徒会も同じく解散されており、選挙管理委員会の下で選挙がおこなわれたのはもう先月のことだ。副会長以下の役員はスムーズに立候補者が当選したのだが生徒会長だけはなぜか無効票が多く、現在再選挙の最中だ。おかげで昼休みになるとスピーカーからは投票数を集めるためのスピーチが連日流れてくる。
 そんな状況下で新生徒会にとっては降って湧いたような年間行事。
 会長業務以外はすべて引き継ぎが終わっていても説明会のタイムテーブルには生徒会長からの挨拶もふくまれており、またこの時期にそれがないのは不相応だ。船頭が多いと船は山にのぼるが船頭おらずして船は進まない。そこで(長がいないので非公式的団体であるが)発足して間もない新生徒会は前生徒会長にして人望篤い夏希に泣きついたというわけだ。
 期末考査を目前にひかえているというのに突然の仕事を引き受けた夏希の人気はもはや不動のものだろう。大きな身振りでスライドを示す夏希を見下ろしながら健二はふと指折り数えてみる。
「ええと、スタッフがぼくたちと生徒会に放送部だろ。パンフ組んだのがオケ部と演劇部だっけ?」
「そうそう。で、シート敷いたのが剣道部」
「へえ。じゃあ椅子ならべたのって」
「そんなの、その辺で練習してた体育会系だろ。先輩がお願い! ってすりゃイチコロだって」
「あははは。佐久間がやるときもい」
「おまっ」

(中略)

「でさ、キングから聞いたんだけど、健二こないだだれといたんだ? つーかキングになに言ったんだ、おまえ」
「へ?」

「あ、それわたしも聞いた。佳主馬の様子変だったし、ねえねえだれとなにしてたの?」

「先輩、言い方がアレっすよ」
「わたしというものがありながら!」
「ええええ」


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名前をつけて。いっしょにしないで。

 低い座卓に向かい合って、かりかりとシャープペンを走らせるのは佳主馬の仕事。たった四日間という約束で東京から連れ出された健二は当然夏休みの課題なんてもってきておらず、年下の子どもたちに宿題を教えてまわることをもっぱらにしていた。
「重さ十キロの机があります。脚は四本あり、底面の面積は二〇平方センチメートルです。机が床に対してかける力と圧力はそれぞれいくらか。ただし力は各脚に均等にかかるものとする」。
 テキストに書かれている問題をさかさまに読みあげて、健二は台所でもらってきた黄色いちらしの裏に絵を描いた。棒が四本。その上にまた一本横に引く。たぶん机のつもりなんだろう。問題がなくて、たとえばこれだけ見せられたとしたら佳主馬は理解できる自信がない。
「まずは力のほうから出そうか。力はなんだったか覚えてる?」
「ニュートン」
「そうだね。じゃあ力が一ニュートンの物体の質量は?」
「一〇〇グラム」
「うん、そこまでわかってるならあとは簡単だよ」
 丸暗記した教科書の内容をそのままに言えば健二はうれしそうにうなずいた。
「一〇〇グラムで一ニュートン。じゃあ机は十キロだから?」
 言われ、佳主馬はちらしの一部で割り算を筆算のかたちにする。暗算でできるほど算数は得意じゃない。十キロは一〇〇〇〇グラム。それを一〇〇グラムで割るのだから両者から〇をふたつ取りはらって。
「一〇〇」
「正解。じゃあそれが四本脚に均等にかかるんだから」
 一〇〇割る四。それくらいは暗算でできる。
「二五」
「うん。そのとおり」
 ばかにしている風でもなく健二がうなずいたので、佳主馬は出した数字で解答欄を埋める。そのまま次の問題に移ろうとしたら「佳主馬くんちょっと待った」健二が声をあげた。
「佳主馬くん忘れ物」
「忘れ物?」
「うん。単位」
 血が通ってないみたいな白い指先で解答欄をとんとんたたく。
「単位は数字に意味をあたえるものだよ。数学って実は言葉が大事だから、気をつけて」  






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ただしく病みあがりで書いてみたらわけわからなくなった。
本当はパスカルまでもっていきたかった。Pa=N / m2

水浴びの庭

 はて。あの白いTシャツはだれのだったろうか。縁側に座って両足を遠くに放り出し、片手でからだを支えながらアイスキャンディーを食んでいた佳主馬はそのままの体勢でふと思った。
 目の前ではかなりおとなげなく、かつ一方的すぎる水遊びがおこなわれている。最初はビニールプールに水を張って真緒と加奈を遊ばせていただけだったのが駄菓子屋で買ってきた水鉄砲をもった真吾と祐平が乱入し、その時点でもう健二の着ているものはびしょ濡れだ。この天候ならすぐ乾くだろうけれど話はそこで終わらない。ちゃちな水鉄砲なんかでは簡便ならんとお昼ごはんを食べにもどってきていて案の定巻きこまれた翔太が口をしぼったホースを健二に向けて蛇口をひねったのだ。ここまで来たらだれの目にもあきらかだ。こないだの一件で芝生が剥けたところが水を受けて泥状態に、そこでお子さま四人組がはしゃぐものだから顔も手も服も泥だらけだ。女性陣が見たら落雷は確実。翔太はいまだにホースの水で追いかけまわしていて、逃げまわる健二が水たまりを踏みつけてはズボンの裾に染みをつくった。
 しゃく、とソーダ味の氷菓が口のなかを冷やしながら溶けていく。今日はガリガリくんじゃなくて中央にバニラ味の芯があるソーダアイスだ。たぶん翔太が買ってきた個人のものだと思うけれどそんなの知ったことじゃない。だって健二といっしょに遊びたいのは佳主馬も同じなのにでもプライドが邪魔してまざれないからこうして待っているのに。アイスひとつじゃあ安すぎるくらいだがほかに請求するものもないのでこれで勘弁してやるのだ。コンビニのビニール袋にはもうひとつはいっていて、いちご味のみぞれもきっちり取りあげておいた。冷凍庫の奥のほうに隠したし名前も書いてあるからたぶん食べられる心配はないだろう。もちろん食べるのは佳主馬じゃない(ひと口ふた口もらうつもりではいるけど)。
 唐突に足もとの沓脱石にまで水が飛んできて佳主馬は反射的に顔をあげた。翔太がホースの口を上にぶんぶんと振りまわしているせいだった。





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サマヲで、日常的な小話
閑話のつもりだったけど流れがわるくなるので隔離
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